オタ恋の広告を分析したら「狂気」と言われてしまった件
伊藤 大悟
※分析モリモリしすぎてアプリ内ブラウザだとページが落ちるケースがあります。safariなど純正ブラウザで見るか、PCで見ることをおすすめします!
こんにちは。クリエイティブプランナーの伊藤です。
みなさんは「オタ恋の広告」と言われてピンときますか?
ネット上にオタ恋の広告についての記事や感想はたくさんありますが、「AIによる画像生成」を中心としたものが多く、
「たしかにそこもすごいけど、オタ恋広告のすごさはそれだけではないぞ…!」
とひしひしと感じていました。
というわけで、オタ恋公式Xのポスト2年分+世の中の記事+オタ恋広告にまつわる声なんかを隅から隅までまるっと見たうえで分析してみました。
これさえ読んでおけば、「オタ恋広告について語れる」状態になること間違いなしです!
2023年、Xで話題を呼んだ「オタ恋」のプロモーション。Xのマーケティングチームから高く評価され、「JAAA 若手大賞」でも特別賞を受賞しています。
そこには広告のセオリーを無視し、「当たり前」を覆す、平凡ではない要素がありました。
独自性の高い要素も中にはありますが、この記事ではできるたけ「参考にできそうなポイント」に要点を絞って分析していきます。
目次
オタ恋のプロモーションフェーズは大きく4つに分けられる
調査・分析をしたところ、オタ恋のプロモーションには大きく4つのフェーズがあることが発覚しました。ひとつずつ分析していきましょう。
第1フェーズ:AI試行錯誤期間(2023年2月~6月)
オタ恋のAI広告の始まりは2023年の3月。ここではAI試行錯誤期と名づけます。
この時期は女性×右の赤帯デザインがメインのクリエイティブ。
今のオタ恋では信じられませんが、このころのポストは大抵1桁リポストで、なんなら猫のほうがエンゲージメントが高いくらいでした。
しかし3月30日、第3者によってバズが起こります。
「モデルの仕事は早くもAIに奪われはじめた。」という一言と、AIである証拠としての指が足りない画像のポストが1.2万RP/6.1万いいねとなりました。
その後、6月ごろからはカップル画像に挑戦。
いまのオタ恋より、落ち着いたマッチングアプリらしいカップルの画像が散見されます。
もともと女性1人の投稿が主流だったため、隠れファンからは「俺のAI娘ちゃんにくっつくなー😭」「男を付けろとは言ってない」など、男性の登場を嘆く声もいくつか見られました。
第2フェーズ:キャラ創出期(2023年7月~9月)
みなさんがオタ恋の広告、と言われてまず初めに思い浮かべるのはどんな画像でしょうか?
そう、こんな感じなのではないでしょうか?
カップルに挑戦しはじめたオタ恋は、ついに「恰幅のよい男性×女性」というフレームを見つけてしまいます。
オタ恋らしさが形成されていくと共に「オタ恋感のある2ショット」「広告の男性に似ている」などのパロディが作成され、UGCが増え始めた時期となっています。
公式サイドでは半数以上が「いらない」と回答しているTシャツを作成するなど、ただのAI画像だった広告が3次元に浸食しはじめている変化のフェーズだったといえます。
第3フェーズ:クリエイティブ覚醒期(2023年10月~2024年3月)
独自のフレームワークを見つけたオタ恋は、ついに覚醒。
素材を流行りのミームに合わせてチューニングしたり、シチュエーションをフィクションに寄せたり、ツッコミどころをふんだんに盛り込んだ広告が目立ち始めます。
また、AI素材の提供やロゴの使用範囲をフリー(9月末)にするなど、オタ恋サイドもミーム化を自覚し促進させるための動きも見られました。
一般企業ではマネしがたいポイントではありますが、パロディという遊びを企業が提供してくれる新しさも大きな特徴です。
しかし、オタ恋の覚醒はまだ終わりません。
10月の地味ハロウィンをはじめ、パワーのあるインフルエンサーたちがこぞってオタ恋を意識し、UGCを投稿しはじめます。
上記のポストはいずれも1~3万いいねがついており、フォロワーの多いインフルエンサーのImpもあいまって、ユーザー認知が一気に加速した時期なのではないでしょうか?
なんの変哲もない2ショットがオタ恋UGCになってしまう世界線。一体なにが「オタ恋らしさ」を生み出しているのでしょうか。
第4フェーズ:動画チャレンジ期(2024年4月~)
ここまでくると記憶に新しい人も多いのではないでしょうか?
オタ恋で過去人気があったキャラクターを活用し、曲付きで動画クリエイティブを作成。リミックスをするユーザーも現れはじめます。
直近でも動画バリエーションを増やしており、オタ恋プロモーションの進化は留まることをしりません。
オタ恋プロモーションの非凡さとは?
さて、ここまでオタ恋プロモーションを4フェーズにわけて振り返ってみましたが、もう少し要点を絞っていきたいと思います。
実際のオタ恋広告やUGCを並べながら、「参考にできそうなポイント」についてみていきましょう。
「オタ恋広告ミーム」の広さと強さ
先ほどの4フェーズでも多くのUGCが出てきましたが、どうやら「オタ恋の広告っぽさ」という共通認識が我々の中にはあるようです。
まずはよく見る恰幅のいい男性×女性。有名インフルエンサーやアーティストもマネしてしまう「ミームとしての強さ」があります。
しかしこちらはどうでしょうか?
男性×男性なのに…これもオタ恋っぽい。2人だったら、オタ恋なのかという疑念が生まれます。
2人でなくてもオタ恋っぽさがあります。1人でも、3人でも、「オタ恋」というミームが適用されてしまう…!
もはや人間じゃなくても、そこには「オタ恋の広告っぽさ」を見出すことができるようです。
「オタ恋構図」と言われるぐらい、適用される広さと強さが非凡です。
オタ恋のイデア(本質)とは?
1人でも2人でも3人でも、もはや人間でなくても「オタ恋っぽい」が通用するということは、オタ恋のイデアが存在するはず。
というわけで…
オタ恋スコアリング表、作っちゃいました。
スタンダードオタ恋:スコア18
まずはスタンダードなオタ恋っぽい画像。
スコアは…18!
男性のみのオタ恋:スコア10
次は男性のみのオタ恋っぽい画像。
スコアは…10!
2人じゃなくてもオタ恋:スコア13
もはや2人じゃなくてもオタ恋らしさが感じられます。
スコアは…13!
動物でもオタ恋:スコア6
動物でもオタ恋っぽさを感じることができます。人間である必要はもうないのかもしれません。
スコアは…6!
自社で広く強いミーム(UGC)を作りたい場合は?
逆説的に、自社ブランドを絡めた広く・強いミーム(UGC)をつくりたい!
ということであれば、オタ恋のようなスコア表をイメージして、逆算してみる…というのもありかもしれません。
その際、大事なのは競合比較した際に「被らないかつ特徴的」な要素を主軸にすること。マッチングアプリの広告はもちろん、一般的な広告でもあまり見かけない目を惹く要素が重要なポイントとなります。
今回のオタ恋の例だと、この恰幅のいい男性がシンボルとして活躍しました。
オタ恋は始めからすべてを狙っていたわけではなく生成AIや広告配信のアルゴリズムからヒントを得た、という側面もあるかもしれません。
しかし、「特徴的な要素」を発見しかけたときに、それが「普通」から外れていたとしてもベットし続ける覚悟は、まさに非凡です。
話題をつくり続けるバリエーションの多さ
オタ恋の非凡さ2つ目は、通常の運用型広告では信じられないほどのバリエーションの多さです。
作成クリエイティブは実に10万枚!投下量はもちろんですが、種類・頻度に関しても異次元。
「圧倒的なバリエーション」が生み出すもの=収集という新しい価値
では「圧倒的なバリエーション」を投下したときに生み出されるのはなんなのか?それは収集やコレクションといったもともと広告にはなかった新しい価値です。
「生成AI」という「未知の技術」が拍車をかけながら、実際にはランダムの画像でも人はそこに「ストーリー」を見出します。
「生成AIでランダムにつくり出された存在」にも、愛着がわきはじめ…
さらにバリエーションが多いものは集めたくなり、「偏り」があると「収集癖」はさらに加速します。
また、収集においては並びの見栄えも重要視されるため、「構図の統一感」や「静止画」の2点も大きく収集の加速に寄与したと考えられます。
「人が楽しく覚えてくれて、話題にしてくれる」という広告のあり方
いまの世の中、「広告バナー」に出会ってうれしいという人は多くないのが現実です。でも、本来広告って人の印象に残ったり、話題になったりするものだったはず。
「Impが出たから認知が取れた」 「獲得につながるならどんなClickでもいい」
ではなく、「人が楽しく覚えてくれたり、話題にしてくれること」に向き合いたい。
そんな決意表明を思わずしたくなる非凡さが、そこにはありました。
ターゲットが話題にしやすいネタ作り
ついオタクが反応してしまうものって何だと思いますか?
そう、パロディです。
「ツッコマビリティ」にオタクは弱いのです。
いつもおふざけしてる人が急に真面目になるギャップも大好物です。
自分ごと化できるほどのターゲット解像度
広告を企画する者として、当然「ターゲット」については詳しくなります。
でも競合企業も当たり前のように、ターゲットのことを理解し、アプローチします。
その中で「おれたちの/わたしたちの~~」とターゲットの方々に言わせるぐらい、彼らを理解している点もまた、オタ恋の非凡さであると言えます。
まとめ:コンセプト⇆アイデア⇆ターゲットを考え抜く
ここまで、オタ恋のプロモーションについて、変遷と3つの非凡さにフォーカスして分析をしてきました。
オタ恋の非凡さは
・「ミームの広さと強さ」によるコンセプト形成
・「量と圧倒的なバリエーション」によるアイデア展開
・「高いオタク解像度」でターゲットに伝える
という3軸が嚙み合った相乗効果から生まれていることがわかりました。
また、コンセプト⇆アイデア⇆ターゲットの3軸すべてを考え抜くことはオタ恋に限った話ではなく、多くのプロモーションに有効なアプローチです。
また、今回この記事を公開するにあたって、オタ恋さまには事前に許可をいただいております!
「オタ恋広告」オタクとして、この記事を世に出せたことを大変うれしく思います。ありがとうございます。
最後に
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
Xで多くのバズを生み出したオタ恋。公式Xの全ポスト・取材記事・オタ恋についてのポスト隅々まで分析して気づいたことは、やはりそこには特有の傾向が見え、多くの示唆が得られるということでした。
過去のプロモーション事例を深く読み込み分析していくことこそが、新たなクリエイティブの手がかりやアイデアに繋がるのではないでしょうか。
とはいえ、「ゆっくり分析している時間はない」と考えている方もいることでしょう。
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※今回の記事はテテマーチ株式会社さん主催のウェビナー、【知っテテナイト】~最近気になったプロモーションを語る会~で使用した資料を記事化したものとなっています。素敵な機会をありがとうございました…!
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【Twitterアカウント:@ito_daigo65】クリエイティブプランナー(部長) メディアレップで代理店営業やって広告代理店で運用やって営業やってクリエイティブプランナーになりました。バズも獲得も両方やれちゃうクリエイティブをつくることが目標です。