今さら聞けない、リテールメディアとは?始め方からメリットまで徹底解説
みなさん、こんにちは。
デジタル広告の環境が大きく変化する中で、「これまでの広告手法では成果が伸びない」「CPAが上がり続けている」「Cookie規制でターゲティング精度が落ちてきた」──こうした課題を感じている企業も多いのではないでしょうか。
そんな状況の中で、急速に注目が集まっているのが 「リテールメディア」 です。
リテールメディアとは、小売企業が保有する購買データや店舗・ECといった顧客接点を広告媒体として活用する新しいマーケティング手法のこと。
従来のWeb広告とは一線を画し、“購入の直前にいる生活者”に高精度でアプローチできることから、メーカー企業を中心に導入が一気に広がっています。
購買データを使ったターゲティングや、店舗とECを横断した効果測定など、これまで実現が難しかった施策も可能になり、認知拡大と売上貢献の双方を狙える点が大きな魅力です。
本記事では、
- リテールメディアとは何か
- なぜ今注目されているのか
- メリットや導入手順
- 失敗しない活用のポイント
まで、初めての方でも理解できるように体系的に解説します。
「リテールメディアって実際どうなの?」「自社に導入すべきか判断したい」
そんな方にとって、判断材料がしっかり揃った内容になっています。ぜひ最後までご覧ください。
目次
そもそも「リテールメディア」とは?

近年、マーケティング領域で頻繁に耳にするようになった「リテールメディア」。
一言でまとめると、小売事業者が保有する購買データや顧客接点を“広告媒体”として活用する仕組みのことを指します。
これまでの広告は、テレビ・Web・SNSなど「媒体側」が主導してきました。しかし、生活者の購買ルートが複雑化し、オンラインとオフラインが一体化していく流れの中で、「購買の最も近くにいる小売が広告を担う」という動きが急速に広がっています。
企業側にとっても、顧客との接点が広告メディアとして価値を持つため、売場づくりや商品展開だけでなく“データ活用を軸にした新しい収益機会”として注目されています。
リテールメディアの定義(小売が“媒体”になるという概念)
リテールメディアとは、小売企業が持つ購買データ・会員情報・店舗やECの枠を広告プラットフォームとして販売するモデルです。
メーカーは、小売の接点を活用して「購買直前の顧客」にアプローチできるため、従来の広告よりも“売上につながりやすい”のが特徴です。
例えば──
- ECサイト内の検索連動広告
- 購買データをもとにしたターゲティング広告
- 店頭デジタルサイネージ
- 店舗アプリのプッシュ通知広告
など、多様な形で活用が広がっています。
従来の広告と異なり、「実際の購買情報」に基づいた精度の高い広告運用ができる点に、大きな価値があります。
オンラインとオフラインの媒体の種類
リテールメディアは、オンラインとオフラインの両方に存在します。
▼オンライン媒体の例
- ECサイト内の広告枠(検索結果上部、商品レコメンド欄など)
- アプリのバナー・プッシュ通知
- 会員メール(メルマガ広告)
- 1st Party データを活用したデジタル広告(DSP配信など)
▼オフライン媒体の例
- 店頭デジタルサイネージ(売り場にあるモニター広告)
- デジタル棚札や棚前POP
- レシート広告
- 店舗入口・カート・買い物かご広告
特に近年は、オンラインとオフラインを横断して広告・購買データを紐づけるOMO型の取り組みが増えており、「アプリで広告を見て、店舗で購入」という行動を測定できる環境も整いつつあります。
なぜ今注目されているのか
リテールメディアが急速に広まった背景には、いくつかの大きな時代変化があります。
サードパーティCookieの規制強化
従来の“追跡型広告”が使いづらくなり、企業のデータに依存しない1st Partyデータの価値が上昇しました。
小売企業は購買と紐づいた確実なデータを持つため、広告主からの需要が一気に伸びています。
消費者の購買行動が「オンライン+オフライン」に分散
店舗・EC・アプリなど生活者の購買ルートが複雑化。
小売はすべての接点を押さえているため、より生活者に近い場所での広告配信が可能になっています。
小売企業側の「新たな収益源」としての成長
店舗収益だけに頼らず、
データ資産の収益化(=広告事業)
を進めたい小売にとって、リテールメディアは大きなビジネスチャンスです。
広告主にとっての“売上への直結性”
「広告を見た人が、実際に買ったのか」という効果測定がしやすく、
広告予算の投下判断がしやすい
点も、注目が高まる大きな理由です。
リテールメディアが注目される背景・市場トレンド

リテールメディアが急速に存在感を高めている背景には、単なる広告手法の変化ではなく、データ活用の潮流、生活者の購買行動の変化、小売業のビジネスモデルの拡張という、複数の大きな要因が重なっています。
これまでマーケティングの中心だった「追跡型広告」や「テレビCM」を取り巻く環境は、ここ数年で明らかに変わりました。購買データを持つ小売を媒介にした広告は、この変化の中で“もっとも実利に近い媒体”として評価され始めています。
ここでは、リテールメディアが注目される理由を3つの視点で整理します。
ファーストパーティデータの価値向上
近年、マーケティング活動において「ファーストパーティデータ(企業が直接取得した顧客データ)」の重要性は急激に高まっています。背景には、Cookie規制やプライバシー強化があり、外部データに依存した広告配信が難しくなってきたことがあります。
その中で、小売企業が持つ ID-POSデータ・購買履歴・会員情報 は、最も信頼性の高いデータとされています。
なぜなら、これらは“実際に購入したかどうか”という事実に基づいているためです。
広告主にとっては、
- 興味関心ではなく「購買行動」に基づくターゲティング
- 広告接触と購入のひも付け
- 無駄打ちの少ない広告運用
が可能になり、代理店側からもリテールメディアの評価が高まっています。
→ データ規制が進むほど、小売のデータ価値は高騰していく構造になっています。
オムニチャネル化により増える購買接点
生活者の購買体験は、ここ数年で一気に複雑化しました。
「店舗で見てECで購入」「アプリでチェックして店舗で受け取る」など、オンラインとオフラインを行き来する購買行動が当たり前になっています。
小売企業はこの一連の行動に関する情報を、
- ECサイト
- 店舗の購買履歴
- アプリの閲覧状況
- 会員ID連携
などで横断的に把握できるため、これらが“広告価値のある接点”として成立し始めています。
つまりリテールメディアは、
「複数チャネルで顧客に触れながら、購買へ導くための導線設計」が可能な広告
と言えます。
広告主側も、従来のメディアでは取得できなかった「店舗起点のデータ」まで分析できるようになり、施策改善の精度が大きく向上しました。
従来広告の効果低下と小売企業の新たな収益モデル
広告を取り巻く環境は、この数年で大きく変化しています。
特にインプレッション重視の広告や、無差別な配信による大量露出は、生活者の広告離れによって効果が薄れつつあります。
さらに、媒体費の高騰・計測の難しさ・プラットフォーム依存などの課題も積み重なり、広告主は「再現性の高い投資先」を求めるようになりました。
一方で、小売企業はEC成長の波に乗りつつも、売上だけに頼らないビジネスモデルの多角化が必要になっています。ここで注目されたのが、
自社が持つデータを活用して広告収益を生む“リテールメディア事業” です。
小売にとっては、
- 既存顧客データを広告ビジネスに展開
- 店舗・ECのトラフィックを収益化
- メーカーとの共同施策により売場強化
など、多方面で効果が期待できるため、企業規模を問わず導入が広がっています。
→ 従来広告の効率低下 × 小売の収益多角化
この2つが重なったことで、リテールメディア市場は一気に加速しました。
リテールメディアのメリット(ブランド・小売・消費者の“三方よし”)
リテールメディアが急速に普及している理由のひとつに、「関わるすべての立場にメリットがある」という点が挙げられます。広告主であるメーカー、媒体主となる小売企業、そして広告を受け取る生活者──この三者の利益が自然と一致しやすい構造を持っているため、従来の広告よりも持続的な価値を生みやすいといわれています。
購買データを基盤にした広告のため、“精度の高さ”と“ムダ打ちの少なさ”が特徴で、店頭施策やEC販売の強化とも相性が良いのもポイントです。ここでは、それぞれの立場が得られる具体的なメリットを整理していきます。
メーカー/ブランド側のメリット(高精度ターゲティング、購買直前接点)

メーカーにとって、リテールメディアの最大の魅力は “購買直前の顧客にピンポイントでアプローチできる” ことです。
ECサイト内の検索広告や、購買履歴にもとづくターゲティング、店頭のサイネージなど、小売がもつリアルな接点を活用することで、従来のデジタル広告よりもCVに直結しやすい訴求が可能になります。
特に以下の点は、メーカーから高く評価されているポイントです。
- 興味関心ではなく“購買行動”にもとづく広告配信
- 店舗・EC双方の売上と広告の効果を紐づけて測定できる
- 販売強化したいSKUに合わせた売場改善や販促連携がしやすい
- Web広告のように効果測定やPDCAが可能
これらのメリットにより、ブランド側は広告費のムダを減らしつつ、売上貢献につながりやすい投資先としてリテールメディアを選ぶケースが増えています。
小売・EC事業者側のメリット(広告収益化・データ資産活用)
小売企業にとってリテールメディアは、単に広告枠を売るだけでなく、自社のデータ資産を収益源に変える手段として重要度が増しています。
もともと小売は、購買データや会員基盤といった価値の高いデータを多く保有しています。これらをメーカーとのタイアップや広告配信に活用することで、
- 広告事業としての新たな収益源を確保
- 購買データ・動線データを使った売場改善
- ECと店舗の相乗効果を高める施策が打てる
- メーカーとの協業による販売強化の実現
など、小売・EC双方にメリットが広がります。
特に近年は、市場全体の利益率が下がる中、小売が安定的に収益を確保できる領域として注目されており、データビジネスへの参入は避けて通れないテーマとなっています。
消費者側のメリット(パーソナライズされた情報・購買体験向上)
広告は生活者にとって煩わしいものというイメージがありますが、リテールメディアに関してはその受け止め方が異なります。
理由は、“その人の買い物に関係する情報だけが届く” ためです。
具体的には、
- 購買履歴に近い商品のレコメンド
- 店頭で必要な情報がその場で得られる
- 家族構成や購買傾向に合わせたクーポン
- 無関係な広告の表示が減る
など、消費者にとって負担が少なく、むしろ“便利”だと感じやすいのが特徴です。
また、店舗とECをまたぐ購買行動が一般化したことで、どのチャネルでも同じように関連情報が得られる環境は、生活者にとってストレスのない購買体験につながります。
結果として、
広告主の成果向上 → 小売の売上拡大 → 消費者の利便性向上
という、バランスの取れた価値循環が生まれています。
リテールメディアの代表的なメニューと広告手法
リテールメディアと聞くと「購買データを活用する広告」というイメージが先行しがちですが、実際にはオンラインから店頭まで、多様なメディアが存在します。
特に近年は、EC・店舗・アプリといった複数のチャネルがシームレスにつながってきたことで、生活者の購買行動にあわせて適切な“接点”を選べる広告設計が可能になってきました。
ここでは、リテールメディアを構成する主要な広告メニューを、オンライン・オフライン・データ連携の3つの切り口で整理します。
ECサイト/アプリ上の広告(検索連動型、レコメンド枠など)

ECサイトやアプリの広告は、リテールメディアの中でも最も利用されているメニューのひとつです。理由はシンプルで、商品検索から購入までの行動がその場で完結するため、購買につながりやすいからです。
主なメニューは以下の通りです。
● 検索連動型広告
ユーザーが検索したキーワードに応じて商品を上位表示する広告。
購買意欲が高い利用者に直接アプローチできるため、CVRが高いのが特徴です。
● レコメンド枠広告
閲覧履歴や購買履歴にもとづいて、関連商品を提案する形式。
「あと一品」を自然に促すことができ、客単価の向上に貢献します。
● アプリ内バナー/プッシュ通知
新商品の告知、キャンペーン、クーポン配布など、リテンション施策との親和性が高いメニュー。
特にアプリは会員基盤と紐づくため、精度の高いターゲティング配信が可能です。
ECの行動データと購買データが連動している点も大きなメリットで、広告の効果測定がしやすく、改善を重ねやすい環境が整っています。
店頭メディア(サイネージ、POP、デジタル棚札)

店頭メディアは、オンライン広告とは異なり、生活者が商品を手に取る直前の“最終接点”でアプローチできるのが最大の特徴です。特に食品・日用品・飲料など、店頭での衝動購買が起こりやすいカテゴリーでは効果が高い傾向があります。
代表的な店頭メディアは次の通りです。
● デジタルサイネージ(棚前・通路)
売場に設置されたモニターで商品紹介やキャンペーンを表示する形式。
動きのある訴求が可能で、ブランド認知と購買を同時に狙えます。
● POP・棚前広告
棚札・棚前ボード・フロアPOPなど、購買判断の後押しをする定番のメディア。
生活者の動線に沿って設置でき、視認性が高いのがポイントです。
● デジタル棚札(ESL)
商品の価格表示がデジタル化され、広告表示やクーポン同期が可能になった新しい形の媒体です。
店頭DXの流れの中で採用が進んでいます。
店頭メディアは、オンライン媒体とは異なる「衝動性」や「視覚的インパクト」が強いため、EC広告と組み合わせることで“売場を強くするマーケティング”が実現しやすくなります。
データ連携型のターゲティング施策(ID-POS連動、CRM活用)
リテールメディアの核心ともいえるのが、この「データ連携型の広告」です。
小売が持つ ID-POSデータ(誰が・いつ・何を購入したか) や、会員情報・アプリデータを活用し、精度の高いセグメント配信を行うことができます。
具体的な施策例は以下の通りです。
● ID-POSを活用したセグメント配信
「過去にA商品を買ったことがある人」「健康食品カテゴリの購入頻度が高い人」など、購買傾向で細分化した配信が可能。
生活者の“実際の行動”に基づくため、無駄な配信を大幅に減らせます。
● CRMデータと連動したメール・アプリ施策
会員ランク、購入サイクル、家族構成などと組み合わせることで、クーポン配信やリピート促進に活用できる。
● ブランド×小売の共同マーケティング
キャンペーン参加者の購買変化を追跡するなど、広告主と小売がデータを共有しながら施策を組み立てるケースも増えています。
こうしたデータ連携型の広告は、“広告を見た人が、その後どう行動したか”まで把握できるため、PDCAを回しやすいという大きな利点があります。
リテールメディアの導入ステップ(始め方ガイド)

リテールメディアが広く活用されるようになった今でも、「どこから手をつければいいのか分からない」という声は少なくありません。購買データや会員情報を扱うため、通常のデジタル広告とは着手のステップが異なるからです。
しかし実際には、必要な工程を順に整理して進めれば、難易度はそこまで高くありません。むしろ、初期設計がしっかりしているほど成果が出やすくなるのがリテールメディアの特徴でもあります。
ここでは、導入の基本ステップを4つに分け、企業がつまずきやすいポイントも補足しながら解説します。
事前準備(データ環境、ID-POS、会員基盤の整理)
リテールメディアを活用するうえで欠かせないのが、最初の“土台づくり”です。
とくに、小売側・メーカー側のどちらであっても、次のような項目を整理しておくと以降の運用がスムーズになります。
● 1. データ環境の確認
- ID-POS(誰が何を買ったか)
- 会員データ(属性・購入頻度・購買サイクル)
- ECやアプリの行動データ
これらがどの程度整備されているのか、利用可能な範囲はどこまでかを把握します。
● 2. 目的設定とターゲット像の整理
「新商品の購買を促したい」「リピート率を高めたい」など、目的に応じて必要なデータの種類も変わります。最初に方向性を明確にしておくことが重要です。
● 3. 運用体制の準備
媒体運用の担当者、データ分析担当、メーカー/小売の窓口など、実務が滞りやすい箇所をあらかじめ整理しておくと、施策が走りやすくなります。
媒体選定と広告メニューの設計

事前準備が整ったら、次に取り組むのが媒体と広告メニューの選定です。
リテールメディアには、ECサイト、アプリ、店頭サイネージ、メール、プッシュ通知などさまざまな形があるため、目的に合ったメニューを選ぶことが成果に直結します。
● EC中心の施策なら
- 検索連動型広告
- レコメンド枠
- カート付近の広告枠
→ 購買に直結しやすく、効果も測定しやすい。
● 店頭中心の施策なら
- デジタルサイネージ
- 棚前POP・デジタル棚札
- レシート広告
→ 新商品告知やカテゴリー強化と相性が良い。
● データ活用重視なら
- ID-POSターゲティング
- 会員セグメント施策(メール/アプリ)
- ブランド×小売の共同施策
→ 精度の高い広告配信と継続的な改善がしやすい。
媒体は複数を組み合わせることで相乗効果が生まれやすいため、単体ではなく“導線”として設計するのがポイントです。
広告出稿〜配信までの流れとポイント
媒体を決めたら、実際の広告運用に入ります。
リテールメディアはWeb広告のような即時運用というよりも、媒体特有の掲載ルールや運用ロジックに沿って準備する形式が多いため、スケジュール管理が重要です。
一般的な流れは次の通りです。
1. 出稿内容の設計
- 訴求内容(キャンペーン・新商品・クーポンなど)
- ターゲット(購買履歴・属性)
- 配信期間
2. クリエイティブ制作
媒体ごとにサイズ規定があり、店頭の場合は静止画・動画の作り方も異なります。
3. 配信設定・入稿
ECなら管理画面、店頭メディアなら小売側の入稿ルールに沿って設定。
4. 運用状況の把握
売上データ・CTRなどを確認し、必要に応じて改善。
特に注意すべきは、“購買データが反映されるタイミング”。
媒体によっては、効果が見え始めるまで数日〜数週間かかることもあり、Web広告と同じ運用感覚で判断すると誤解が生じやすくなります。
効果測定と改善サイクル(購買データを用いたPDCA)

リテールメディアの最大の特徴は、購買データを使って施策の効果を確認できることです。
これは従来の広告では難しかったポイントで、メーカーと小売の双方に大きな価値があります。
● 測定の主な指標
- 売上増加(期間中の購買数・金額)
- 新規購買者の増加
- 既存顧客のリピート率
- 広告接触者の購買率(ROASやリフト値)
● 改善の方向性
- 配信対象の見直し(セグメント精度の調整)
- 媒体の組み合わせ変更(EC+店頭など)
- クリエイティブ改善
- 配信期間や露出量の最適化
購買データは「実際に買ったかどうか」という最終成果を測定できるため、改善の方向性が明確になりやすいのが強みです。これにより、継続的に効果を高めるPDCAサイクルがまわしやすくなります。
国内外の市場動向と具体的事例
リテールメディアは、数年前までは「一部のEC事業者が取り組む新しい広告」という位置づけでした。しかし現在では、北米・欧州を中心に市場が急拡大し、日本でも大手小売を起点とした導入が一気に広がりつつあります。
その背景には、購買データの価値向上や、広告主が求める「確度の高い投資先」のニーズが高まったことがあります。特に海外の動きは、日本企業にとって参考になる事例が多く、リテールメディアの未来像を考えるうえで欠かせません。
ここでは、海外・国内それぞれの最新動向と、日本ならではの成功のポイントを整理していきます。
海外における急成長と先進事例(Walmart など)
海外では、リテールメディア市場がデジタル広告の中でも特に高い成長率を示しています。
その中心にいるのが Walmart Connect や Amazon Ads をはじめとした大手リテーラーです。
● Walmart Connect(米国)
Walmartは、ID-POSデータ・来店行動・オンライン行動を統合し、
- サイト内広告
- 店頭サイネージ
- 配送ボックス広告
- データ連携型ターゲティング
など幅広いフォーマットで広告配信を行っています。
特に評価されているのは、オンライン・オフライン双方の購買データに基づく「広告効果の可視化」。
広告主は、“広告が売上にどう貢献したか”を明確に判断できます。
● Amazon Ads
AmazonはECの行動データをもとに、検索・レコメンド広告を高精度で運用できる環境を築いています。世界最大級の購買プラットフォームという強みから、メーカーの広告投資が大きく集まっています。
● 欧米のスーパー・薬局チェーンの動き
Tesco(英国)や Carrefour(仏)、Target(米国)などもリテールメディア事業を強化しており、
「店舗の売場 × デジタル広告 × 購買データ」
を組み合わせた統合マーケティングが進んでいます。
海外の共通点は、小売が“広告会社レベル”の運用体制やデータ基盤を整え、事業として本格展開している点です。
日本国内の取り組み事例(ドラッグストア/スーパーなど)
日本でも、ドラッグストア・スーパー・コンビニを中心に、リテールメディアの導入が一気に加速しています。
● ドラッグストア(例:ウエルシア、ツルハ等)
ドラッグストアは購買頻度が高く、会員データも充実しているためリテールメディアと相性が良い領域です。
- アプリのプッシュ通知
- ECサイトの広告枠
- 店頭サイネージ・棚前POP
などを組み合わせた統合施策が一般化しています。
● スーパー(例:イオン、ライフ 等)
スーパーは生鮮・日配商品など“その日の購買に影響しやすいジャンル”が多いため、店頭サイネージやデジタル棚札を活用した施策が増えています。
ID-POSと連携したターゲティングメールなども導入が広がっています。
● コンビニ(例:ファミリーマート、ローソンなど)
店内デジタルサイネージやアプリ広告が積極的に導入され、短い来店行動の中で認知と購買を同時に生み出す設計が進んでいます。
● ECと店舗を横断する施策
アプリの閲覧履歴をもとに、
- 店頭クーポン
- オンライン限定・店舗限定キャンペーン
などが小売によってバラバラで、運用が複雑になりがちです
日本でも市場は確実に拡大しており、小売各社が独自の広告ネットワークづくりに取り組んでいます。
日本市場特有の課題と成功ポイント
リテールメディアが急成長する一方で、日本市場には特有の課題も存在します。それらを理解したうえで施策を組み立てることが“成功しやすいリテールメディア”につながります。
● 1. 小売ごとにデータ形式・運用ルールが異なる
海外のように標準化が進んでいないため、
- データ形式
- 配信ルール
- 効果測定方法
などが小売によってバラバラで、運用が複雑になりがちです。
成功ポイント:
などが小売によってバラバラで、運用が複雑になりがちです。複数小売を横断した施策では、運用を一元管理できるパートナーを活用するとスムーズ。
● 2. 店舗運営の“現場負担”が生じやすい
棚替え・POP設置・サイネージ運営など、店舗スタッフの協力が必要な場面が多い。
現場との連携が取れていないと、施策の質が落ちやすくなります。
成功ポイント:
店舗側の作業量をできるだけ軽減した運用設計が重要。
● 3. 日本の購買行動は細かく複雑
日本の消費者はカテゴリによって購買サイクルが細かく異なるため、単純なセグメントでは成果が出にくい場合があります。
成功ポイント:
ID-POSの分析精度を高め、「誰に」「いつ」「何を」届けるかを丁寧に設計すること。
リテールメディア導入時の注意点・課題

リテールメディアは購買データを活用できる強力なマーケティング手法ですが、導入すれば自動的に成果が出るわけではありません。特に日本では、小売ごとにデータ環境や運用ルールが異なるため、事前の設計や体制づくりが成果を左右することが多くあります。
また、データを扱う以上、プライバシー配慮やセキュリティ対策も欠かせません。ここを曖昧にしたまま進めると、企業の信頼に関わる問題にもなりかねません。
本章では、導入時に気をつけるべき代表的な課題を整理し、その背景や対応ポイントを分かりやすく解説します。
データプライバシー・個人情報管理への配慮
リテールメディアでは、購買履歴や会員情報といった“センシティブなデータ”を取り扱うため、プライバシー保護の姿勢が最も重要になります。
特にID-POSや個人に紐づく購買データは、活用できる範囲が法律やガイドラインによって明確に制限されています。
気をつけるべきポイントは以下の通りです。
● データ活用の目的と範囲の明確化
「何のために活用するのか」を曖昧なままにすると、内部統制の観点で問題が発生しやすくなります。
● 個人が特定されない形での分析
購買データは基本的に匿名化・集計化した状態で扱うことが前提。
広告主は「どのような形式でデータが提供されているか」を理解しておく必要があります。
● セキュリティ体制の確認
小売側・広告主側のどちらにもデータの取り扱いルールがあるため、情報管理の手続きや契約内容を確認しながら進めることが欠かせません。
企業規模に関わらず、プライバシー保護を軽視するとブランド信頼性を損なう恐れがあり、ここを丁寧に整えることが成果を出すための前提条件になります。
データ分析/運用体制の整備
リテールメディアの成功には「データを読み解ける環境」と「媒体運用の意思決定ができる体制」が欠かせません。
どれほど良い広告メニューを選んでも、分析と運用の体制が弱いと、成果が継続的に伸びづらくなります。
● 分析体制のポイント
- 購買データや広告指標を読み解く分析スキル
- セグメント設計や購買傾向の理解
- 小売ごとの差異を理解した集計スキル
データが豊富にあるほど、分析の質が結果に直結します。
外部パートナーと連携しながら、必要な範囲を補う企業も増えています。
● 運用体制のポイント
- 広告メニューの知識
- 入稿・スケジュール管理の実務理解
- 改善活動を継続するための担当者配置
複数媒体を横断する場合は、媒体ごとの仕様を把握する必要があるため、誰が中心となって全体を管理するのかを明確にしておくとスムーズです。
媒体運用に必要なノウハウとコスト
リテールメディアは、Web広告と同じように運用型の側面がありますが、実際には小売ごとに媒体仕様や運用ルールが異なるため、一定の専門知識が求められます。
特に注意したいのは次のポイントです。
● 小売ごとの運用ルールの違い
掲載枠、カートリッジのロジック、データ反映のタイミングなどは企業ごとに異なります。
複数の小売で施策を動かす場合、運用の複雑性が増すことがあります。
● クリエイティブ制作にかかる手間
ECと店頭では求められる表現が異なり、動画・静止画・棚前POPなど複数の形式が必要です。
● 効果測定に必要なコスト
購買データの抽出や分析に費用がかかる場合もあり、施策検証の設計段階から予算に組み込んでおく必要があります。
こうしたコストや運用負荷を見越したうえで、「どこまで自社で対応するか」「どこを外部パートナーに任せるか」を決めることが、失敗を防ぐための大きなポイントです。
これから始める企業のためのロードマップ
リテールメディアは、市場全体が伸び続けている注目領域ですが、初めて取り組む企業からすると「どこまで準備すべきか」「最初の一手は何が適切か」が分かりにくい部分もあります。特に、小売との連携や購買データの扱いなど、通常のデジタル広告とは異なる前提条件が多く、独学で進めると手戻りが発生しやすくなります。
しかし、導入のステップを順番に踏んでいけば、過度なリスクなく運用を開始できます。
本章では、リテールメディアをこれから始める企業向けに、現状把握から媒体選定、テスト運用、効果測定までの“実務ベースのロードマップ”を整理しました。
自社の現状整理(データ・チャネル・目的の把握)
リテールメディアを成功させるには、最初に“自社の立ち位置”を正確に把握することが欠かせません。
広告主・メーカー側の場合でも、以下の観点を整理しておくと施策設計がぐっとやりやすくなります。
● データ環境の確認
- 自社の顧客データはどこまで活用できるか
- 小売のデータと連携できる部分はあるか
- 計測したい指標が取得可能か
データの有無によって選べる施策の幅が変わります。
● チャネル状況の把握
- オンライン(EC)とオフライン(店頭)のバランス
- 認知~購買までの導線
- 既存の広告施策との整合性
目的の明確化
● 目的の明確化
「認知拡大」「新規購買」「リピート促進」「カテゴリ強化」など、目的を1つに絞ることで、後の媒体選定やKPI設計の正確性が高まります。
小売企業・媒体パートナーの選び方
リテールメディアは“小売ごとに広告メニューやデータ環境が異なる”ため、どの小売を選ぶかで施策の成否が大きく変わります。また、小売と企業の橋渡しを行う専門パートナーを利用するケースも増えています。
選定時のポイントは以下の通りです。
● 小売のデータ・媒体力
- ID-POSの網羅性
- 店頭・EC・アプリの広告在庫
- 効果測定の精度
● 自社商品との相性
- 定番商品の購入頻度に合う小売か
- ターゲット層と来店者が一致しているか
- 競合商品が強いカテゴリーかどうか
● 運用サポートの有無
小売によっては、運用サポートや分析レポートの質に差があります。
複数チャネルを横断する場合は、外部パートナーを併用することで運用の手間を大きく減らせます。
スモールスタートでのテスト施策の考え方
いきなり大きな投資をせず、小規模テストから始めるのがリテールメディアの定石です。
市場や小売によって成果の出方が異なるため、まずは“検証しやすいメニュー”から着手し、仮説を固めることが重要です。
● テストに適した施策
- ECの検索連動広告
- アプリのクーポン配布
- 店頭サイネージの限定配信
- 特定セグメントへのID-POSターゲティング
これらは成果の出方が比較的分かりやすいため、改善ポイントを把握しやすいという利点があります。
● テスト時のポイント
- テストの目的を1つに絞る
- 効果の反映期間を理解する(特に購買データ)
- 施策ごとの比較ができるよう条件を揃える
小さく始めて、勝ち筋を見つけてから本格展開する流れが最も失敗しにくい手法です。
KPI設計と効果測定のポイント
リテールメディアは“購買データで成果を可視化できる”ことが強みですが、KPI設計が曖昧だと正しい評価ができません。
目的に応じて、追うべき指標を整理しておくことが欠かせません。
● 認知目的
- リーチ数
- 店頭サイネージの視認率
- EC内表示回数
● 購買目的
- 販売点数・売上金額
- 新規購買者数
- リピート率
- 広告接触者の購買率(リフト値)
● 改善のためのポイント
- 結果を必ず「非接触者」と比較する
- 小売ごとにデータ反映タイミングが違う点を理解する
- 施策単位で原因を特定しやすい評価軸を設計する
“広告が何に効いたのか”を正しく把握できれば、次の一手の精度が格段に上がります。
今後の展望 ― マーケティングはどう変わるか?
リテールメディアは、単なる広告メニューの拡大ではなく、マーケティングの“構造そのもの”を変えつつあります。生活者の購買行動が複雑化し、データ活用の在り方も大きく見直される中で、広告主・小売・消費者の関係性はこれまでとは別のステージに入りつつあります。
今後は、Cookieに依存しないデータ活用、オンラインとオフラインをつなぐ体験設計、そしてAI技術の進化によって、マーケティングの精度とスピードが飛躍的に向上すると考えられています。
ここでは、リテールメディアの未来を形成する3つの軸について整理していきます。
Cookieレス時代におけるファーストパーティデータの価値
サードパーティCookieの廃止が進む中、企業はこれまで以上に“自社で保有するデータ”の重要性を理解する必要があります。
特に小売が持つ購買データは「生活者が実際に何を買ったか」が分かるため、Cookieに代わる確度の高いデータとして注目されています。
● ファーストパーティデータが中心になる理由
- 規制強化でも利用可能な合法的なデータである
- 購買行動に基づくため、ターゲティング精度が高い
- 長期的に資産として蓄積できる
これまで広告は「興味・関心」が中心でしたが、今後は「行動データ」に基づく施策が主流になり、ファーストパーティデータを持つ企業が競争力を高める構造が明確になっています。
OMO/オムニチャネルとの融合による新しい顧客体験
店舗とEC、アプリ、SNSなど、チャネルが多様化する中で、生活者は特定のチャネルに留まることなく購買行動を行っています。
その結果、広告も 「どのチャネルからでも同じように繋がる体験」 が求められるようになりました。
● 小売企業が持つOMOの強み
- 店舗の動線データとECの購買履歴を両方保有している
- アプリ・会員情報を介してチャネルを跨いだ接点を作れる
- オンライン施策が店頭購買にどう影響したかを測定できる
こうした環境が整うことで、例えば以下のような体験が実現します。
- アプリの閲覧履歴に応じた店頭クーポンの配信
- 店舗で見た商品をECでおすすめする施策
- ECのカゴ落ち商品が店頭でプロモーションされる
オンラインとオフラインが互いを補完しあうことで、生活者のストレスが減り、より自然な購買体験が作られていきます。
AI・データ技術の進化によるターゲティング精度の向上
AIの進化によって、リテールメディアの“精度”と“スピード”は今後さらに高まると考えられています。
● AIがもたらす変化
- 膨大な購買データを高速に分析
- 生活者の購買傾向を自動でセグメント化
- 最適な広告枠・タイミングを自動で判断
- 売上リフトを予測するモデルの精度が向上
従来は分析担当者が時間をかけて行っていた作業が、AIによりリアルタイムで処理されるようになると、「生活者ごとに最適化された広告配信」がより一般化します。
● 現場への影響
- 企画・運用のスピードが向上
- テスト→改善のサイクルが短縮
- 小売と広告主の共同分析が進化
- 店舗・ECの在庫情報との連携も拡大が期待
AI技術の発展は、リテールメディアを単なる広告枠ではなく、「データに基づく販売戦略」の中心へと押し上げる可能性を秘めています。
ここまで、リテールメディアの基本から市場動向、導入ステップ、今後の展望までを解説してきました。
リテールメディアは、単なる広告手法ではなく、購買データを起点にマーケティング全体を見直すための考え方とも言えます。
Cookieレス時代を迎え、従来の広告だけでは成果を出しづらくなる中で、リテールメディアは「売上に近い場所」で生活者と向き合える有力な選択肢です。
まずはスモールスタートで検証を行い、自社に合った活用方法を見つけていくことが重要でしょう。
本記事が、リテールメディア活用を検討するうえでの判断材料となり、次の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
編集者
CANVAS編集部
編集者
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