【企画分解のじかんVer.2】THE FIRST TAKE広告賞4冠の理由を勝手に考える
池邊 沙也加
皆さん、こんにちは。D2C Rストプラチームの池邊です。
世の中の心動かされる素晴らしい企画、広告、プロダクト。この記事ではそういった事例の魅力を「分解」しながら考えます。
前回に続き、今回はTHE FIRST TAKEをテーマに選びました。おそらく多くの方が視聴したことがある、もしくは名前はご存じなのではないでしょうか?私自身新しいアーティストと出会ったり、かと思えば深夜高速のような名曲の再演もあってぐっと来たり…
何を隠そう、この記事を書いているたった今も中島美嘉さんの「雪の華」の配信を待機しています。
そんなTHE FIRST TAKEですが、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSにて4冠という快挙を達成しました。
クリエイティブの質に加え、マーケティング視点からも高い評価を受けている理由について、企画分解の【概要リサーチ】【反響リサーチ】【分析フォーマット(FMT)】という3STEPを踏まえながら思いを馳せてみます。
目次
概要リサーチ
何を?-アーティストの一発撮り楽曲を、没入感を最大限引き出す形で発信
コンテンツの概要は言わずもがなですが、そこに行き着くまでには「没入感」をKWに、圧倒的なこだわりが詰め込まれています。
視覚と聴覚によって、プリミティブな快感を追体験して楽しめる映像がYouTubeでは大事なのだと感じ、ヒントにしていきました。
引用元:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80638?page=2YouTubeにはどうしてもユルさのあるコンテンツが多いので、ハイクオリティなものを作ることが差別化のポイントになるんじゃないかと考えたんです。
引用元:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80638?page=3
上記はTHE FIRST TAKEのスタッフへのインタビュー記事から抜粋したものです。
「プリミティブな快感」「ハイクオリティによる差別化」など、目指すものはシンプルですが、それを実現するためにあらゆるコンテンツに触れ、様々な試行錯誤を重ねていることが記事では書かれています。
どんな流れで?-2019年から水・金22時に1本、YouTube中心の各種SNS発信
YouTubeチャンネルの印象が非常に強いですが、1チャネル完結型ではなく様々なSNSの特性を活かしながら、複合的に設計されたコンテンツであることが分かります。
結果、上記の通りいずれのSNSでも大きなフォロワー規模を誇っています。
配信スケジュールも徹底されており、コロナ禍の緊急事態宣言下では「THE HOME TAKE」と銘打ってアーティストに自宅やプライベートスタジオで楽曲収録をお願いしています。困難にぶつかっても音楽を止めない、強い意志を感じる施策です。
誰に?-音楽を愛するすべての人へ 、「歌が聞きたい」という根源的欲求を満たす
音楽というテーマに研ぎ澄まされたクリエイティブを、様々なメディアに滞留する人へ確実に届く・伝わるFMTに変換しながらコミュニケーションを図っています。THE FIRST TAKE出身アーティストの印象が強いですが、往年の名曲を歌ってもらっていたり、
世代を問わず様々な方に向けた音楽を発信しています。
更に特徴的なのは、このコンテンツではダンスなどのパフォーマンスがほぼ行われないことです。ライブでは本来振付があり、
観客もあわせて踊ったり合いの手を入れたりする曲でも、アーティストはマイクの前から動きません。
ライブではパフォーマンスを含んだお祭り感を楽しむ一方で、ボーカルの歌い方やそこに込められた感情、楽器隊の演奏など楽曲としての魅力も味わいたい…でも生演奏だとテンションが上がってなかなか集中して見れない…音楽好きが1度は感じるジレンマだと思います。THE FIRST TAKEはそんなニーズを満たすコンテンツにもなっていると感じました。
反響リサーチ
受賞アワード
ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSにて、
フィルム部門 B
マーケティングエフェクティブネス
ブランデッド・コミュニケーション D
メディアクリエイティブ
の4冠を達成。
フィルム部門に関しては「映像としての素晴らしさ」が評価基準と思われますが、Bカテゴリーというのはonline作品を募るカテゴリーという意味です。AカテゴリーではTVCMが評価対象となります。
その他のアワード審査基準は、以下のように発表されています。(2021年HP:http://www.acc-awards.com/2021fes/から抜粋)
マーケティング・エフェクティブネス
「マーケティング戦略×クリエイティビティ」で「成果」をあげた施策やキャンペーンを評価します。
単に、規模の大きさではなく、広告主や社会課題の解決につながる驚きのある企画力・発想力・実現力を重視します。
ブランデッド・コミュニケーション D
ブランドのために創られた、ソーシャルメディアやデジタル上のコンテンツの優れたクリエイティビティや美しい設計、その拡散力を表彰します。
メディアクリエイティブ
メディアのアセットを活用したクリエイティビティにより、広告主や社会課題の解決、メディアビジネスの進化に貢献した取り組みやアイデアを評価します。
受賞の理由は、最後に改めてまとめようと思います。
メディア
新しい投稿やアーティスト情報は、スポーツ新聞/巨大WEBプラットフォーム/音楽メディア…と横断的且つ瞬く間に拡散されていきます。
SNS/その他
関連ツイートは2019年から約90倍に。
最初は紅蓮華など話題の楽曲から注目され、翌年にはTHE FIRST TAKE自体の認知が拡大、本コンテンツから話題化した楽曲、アーティストのKWが目立ちます。
今年は大御所グループから声優まで幅広い名前が目立ち、影響力が波及していることがKW変遷を見てもよく分かります。
※クチコミ@係長によるリサーチ
アワード受賞の理由
ここまでの調査を振り返りながら、前述の各アワードを受賞した理由を私なりに考えてみます。
フィルム部門 B
言わずもがな、妥協のない高品質な楽曲動画が評価されたのでしょう。音に集中してもらうために他を排除した真っ白いスタジオ、あえて横顔から画面を構成することで、普段まじまじと見れないアーティストの「歌う顔」までじっくり見れる演出、衣擦れや息継ぎなど、一見「無音」であるはずの瞬間もコンテンツの一部にすることで、より歌声を一層際立たせるメリハリの利かせ方など…
私はクリエイターではありませんが、素人目に見てもこだわりの詰まった映像だとわかります。
また、無機質なカラーにポップな一本のライン…と、誰もがTHE FIRST TAKEのブランドを認知できるシンプルで記号的なトンマナ・世界観に統一された動画一覧ページも圧巻です。
マーケティングエフェクティブネス
コロナ禍における音楽シーンの冷え込み、自粛ムードによる家の中での閉鎖的な生活などの社会課題に対し、THE FIRST TAKEが一発撮りというライブ感・緊張感のあるコンテンツを提供することで新しい熱狂の形を提供したのが大きかったのかなと思います。
特に日本では、コロナ禍で老舗のライブハウスが続々と閉店してしまったり、ギターをもって電車に乗るだけで怪訝な顔をされたり…と、アーティスト側も大きな課題を抱えている時期でした。THE FIRST TAKE FESなどを筆頭に、このコンテンツを通して生活者とアーティストのコロナ禍における繋がりが創出されました。
ブランデッド・コミュニケーション D
SNSそれぞれを活用した立体的なファンコミュニケーションと、いずれも数十万人規模のフォロワーを誇る影響力の大きさが評価されたのではないでしょうか。 YouTubeがよかった、というだけではなく各種SNSでそれぞれに最適な形のクリエイティブ落とし込みを実施し、立体的なつながりを生み出しながら「THE FIRST TAKEファン世界」を作り上げています。
メディアクリエイティブ
YouTubeへの動画投稿から、コロナ禍の音楽シーン盛り上げ、ブランド発の撮りおろし楽曲や企業タイアップ、新たなアーティスト発掘のためのオーディション…と、非常に大きな波及を生み出したことは、まさしくメディアビジネスの進化だったのではないでしょうか。
THE FIRST TAKEの型を模倣する動画投稿者が非常に多いことも、2年弱でいかにこのコンテンツが世間に広く認知、浸透したのかを表しているといえます。
分解FMT
では、最後にFMTを用いながら、企画分解のまとめに入りたいと思います。
ブランドのメッセージ
ONE TAKE ONLY,ONE LIFE ONLY 一発撮りで音楽と向き合う。
この言葉にすべてが詰まっていると感じます。
企画の狙い
新しいアーティスト発掘や、音楽シーンの創出そのものを目指しているようです。YouTube登録者数の30%はアジア圏の方だったりするそうで、日本語で世界ヒットする曲を生み出していくこと、海外とリモートで繋いだTHE FIRST TAKEを実現すること…などを目標にしているという話も見受けられました。
ターゲットへのメッセージ
先見性のあるアーティスト選定や、名曲のリ・クリエイト、コロナ禍での収録継続…
様々な施策を通して音楽に向き合い、そして「音楽をあきらめないこと」を伝えてくれています。
感動ポイント
コンテンツ一つ一つに妥協しない姿勢と、それを2年間維持し続けている情熱に感動します。継続は力なり、と言いますが、チャンネル運営はじめクロスメディアを駆使したこの一大プロジェクトは、きっと並大抵の努力では生まれなかったのでしょう。
それはYouTubeチャンネルだけに限らず、あらゆるコンテンツに精通することです。その集大成とも言えるのが、今回のアワード4冠なのかもしれません。今後もいちファンとして、THE FIRST TAKEに上がる新しい音楽を楽しみにしています。
▼前回の企画分解はこちら
ストラテジックプランニング部 ストプラチーム。ゲームディレクションやWEBコンテンツ制作などの企業を経て、D2C Rに入社。ユーザーモーメントやペルソナ分析を軸に、感情を大切にした戦略を書きます。ごはんとお酒で大体幸せ。在宅勤務のリフレッシュに、ネットサーフィンのお供に。読みやすくて為になった気がする記事を発信します。