Tips 2022.10.17

【企画分解のじかんVer.3】My Hair is Bad 音楽サブスク解禁に伴うプロモーションを分析

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池邊 沙也加

皆さん、こんにちは。D2C Rストプラの池邊です。

世の中の心動かされる素晴らしい企画、広告、プロダクト。
この記事ではそういった事例の魅力を「分解」しながら考えます。

ところで感染者がなかなか収束しきらぬ日々が続いていますが、ワクチンが広まったこと、ウィズコロナのライブ様式を演者・オーディエンスが模索し少しずつ形にしてきたことが結実し、対面ライブや来日バンド公演が最近増えてきましたね。例え声が出せなくても、同じ空間を共有しているだけで感じる高揚感と連帯感は何にも代えがたいものだな…と感じます。

諸事情により前回の記事 からずいぶんと間が空いてしまいましたが、今回は、2022年4月に話題になったMy Hair is Bad(通称:マイヘア)の一連のプロモーションを分解します。本編でも触れますが、彼らはライブハウスでの演奏を非常に大事にしてきたバンドです。サブスク解禁という大きな決断に伴い、しっかりとターゲットに対する全体コミュニケーションを設計し、プロモーションを実施していました。拙いながら私の見解をお話できれば幸いです。

※毎度のことですが、本記事は筆者の独断と偏見で選んだ事例に対して、個人的な調査と分析・示唆を語るだけのものです。記事内で取り上げているコンテンツ及びプロモーションと弊社に直接の関係はございません。

それでは概要リサーチから始めます!

この記事を読んでいる方へ

▼SNS×広告 意識調査レポート
・広告表現別の印象
・インフルエンサー/コラボ/UGC風
・好きな広告
・煩わしい広告
・買いたくなる/シェアしたくなる広告
などZ世代の実態を知ることができる内容です。

詳しく知りたい

【概要リサーチ】

■何を?―チャネルを横断する総合プロモーション

2022年4月1日からの楽曲サブスク解禁に合わせ、バンドの定番曲「真赤」と新曲「歓声をさがして」の2曲を軸にOOH/アドトラック/TV出演/デジタルコンテンツ配信…と、チャネル横断型の大規模プロモーションを展開していました。

■どんな流れで?―2022年4月を山場に、前後でじっくりと盛上げ・深耕

ファンを中心とした事前の話題化を図り、サブスク解禁日盛り上げ最大化を図ると同時に、4月中タワーレコードとのコラボレーションを基軸とした渋谷エリアにおける広告露出を強化しています。

サブスクで初めて楽曲に触れた、関心を持ったタイミングでバンドの顔つきも届けられるスケジュール構成です。

日付 施策 詳細
3/19  【My Hair is Bad初挑戦シリーズ】開始

全4種のアナウンスを段階的に発表し、
第3弾:Mステ出演、第4弾:サブスク解禁だった。

 

3/26  『歓声をさがして』 先行配信
4/1  『真赤』 ライブ映像公開
サブスク解禁
Mステ3時間スペシャル出演(『真赤』&『歓声をさがして』メドレー)
4/6   Spotifyプレイリスト 「This is My Hair is Bad」公開
~4/10 渋谷コンコース広告&アドトラック掲出
~4/15  スクランブル交差点看板掲出 (2枚…渋谷駅ビルロングボード:4/15 Q2ポイント:4/10※短縮掲載)
~4/24  タワレコ外壁ジャック

更に、各種施策を掘り下げます。

Mステ出演

バンドの口上から演奏が始まり、地上波でもライブハウスのような演出を心掛けている様子がうかがえました。放送後の公式ツイートにも、多くのファンが賞賛のコメントを送っています。

渋谷コンコース広告

「東京メトロ(半)渋谷プレミアム」を用いて「タワーレコードの手書きポップ広告」を掲出しました。これはタワレコ外壁ジャックと同じトンマナで用意されています。特にコンコース広告では、横長の非常に大きな枠を余すことなく活用し、今までのディスコグラフィーを新譜に至るまで振り返る壮大な内容となっています。

アドトラック

新譜「angels」と旧譜を両側面にラッピングしたデザインで、駅広告・OOHに合わせて楽曲を流しながら渋谷エリアで走行していたようです。

スクランブル交差点看板

この広告は、もっとも見覚えのある方が多いのではないでしょうか?「渋谷駅前ビルロングボード」と「Q2ポイント」という広告枠を用い、向かい合った縦長の枠に『真赤』の歌詞を使ったテキストメッセージを大きく打ち出しました。

「ブラジャーのホックを外す時だけ…」と始まるQ2ポイントに掲載した実際の歌詞は、クレームが入って予定より掲出期間を短くするトラブルにも見舞われましたが、細かいターゲティングも出来ず、ともすれば景観に埋もれてしまいがちなOOHにおいて、それだけ接触者に大きなインパクトを与える広告だったとも言えるでしょう。

その他

更に一歩引いた視点で、バンド全体のスケジュールにも目を向けると

日付 施策 詳細
4/13   2年10カ月ぶりのアルバム「angels」発売 初回プレス版にはチケット選考抽選に応募できるシリアルコード付き
5/27~  2020年延期公演の振替を含む「アルティメットホームランツアー」開始

 

…と、サブスク解禁→新譜購入→ライブ体験までがシームレスに続くようにイベント設計されていることが分かります。

また、各種プロモ情報はTwitterなどでこまめに情報発信されており、アナウンス設計にも抜かり無いことがうかがえました。

■ターゲット(誰に?)―新規・ファン層両方を相手取るプロモーション

邦楽ロック好き、という大きなくくりの大前提がある上で、まだマイヘアをよく知らない「新規層」と、今まで応援してくれた「ファン層」ともにターゲットとして相手取ったプロモーションだと感じます。

【反響】

ここまでの調査で、本施策が綿密に組まれたプロモーションであることは伺えました。続いて世に出てからの反応はどうだったのか、更に分解します。

広告賞などの受賞は調べた限り見受けられませんが、メディア、SNSでは非常に大きな反響を呼んだ企画でした。

■メディア

楽曲メディア以外にもOOH情報メディア、週刊誌のデジタル版など幅広いメディアにてサブスク解禁及びプロモーションについて取り上げられました。

■SNS/その他

Twitterでは4/1におよそ15,000件以上のマイヘアに関するツイートが呟かれました。主な内容は「サブスク解禁」と「Mステ出演による地上波初登場」に関する内容です。

また、googleトレンドで彼らのデビュー年である2008年から傾向を追うと、2016年のメジャーデビュー時を大きく上回り、多くの人の注目を集めたことが明らかです。

【分解FMT】

■ブランドのメッセージ

彼らのHPに掲載されている、峰岸利恵さんというライターのテキストを一部引用します。

人に媚びずに、自分に奢らずに、好きな子には正直に。
新潟上越3ピースロックバンド・My Hair is Bad
再放送なし、毎瞬更新のドキュメンタリーバンド。

引用元:https://www.myhairisbad.com/biography

更に、下記はWikipediaを参照に作成した、彼らの年間ライブ本数の変遷です。

2015年には169本、およそ2日に1回ライブをしているという超過密スケジュールになっていることが分かります。2019年はずいぶん減ったように見えますが、年間で28本、つまり2週間に1度はライブをしている状態です。

また、マイヘアは等身大の恋や悩み、ありのままの姿を歌に込めるバンドです。コンスタントなライブ現場とその空気感が、そのままコンテンツのブランドであると感じます。

■企画の狙い

サブスク解禁というとても大きな舵切りをするにあたり、My Hair is Badの持つ「ライブ・音源主義」「飾らぬ世界観」という二つの魅力をブラさず発信することだったのだろう、と仮説立てました。

■ターゲットへのメッセージ

前述の【新規層】【ファン層】それぞれの思いは異なりますが、メッセージとしては「ありのまま、変わらないマイヘア」だったのかなと思います。

音源を買わない人にも楽曲を届けられるサブスクへの進出は、マイヘアを知らない新規層にもアプローチできる大きな機会です。一方で、レコメンドによる“ながら聞き”短尺版による“つまみ聞き”も増えるため、バンド自体へのエンゲージメントをいかに深めるか…はサブスクの課題と言えるでしょう。マイヘアのブランド・世界観をいかに広く理解してもらうかが重要な課題だったのではないでしょうか。

また、彼らを応援し続けてきたファン層からしても、視聴ハードルの下がるサブスク流通は「ライブ客の変化」「身近にいた“マイヘア”という存在の変容」など、ある種の寂しさや不安を感じさせるタイミングでもあります。しかし、初期から一緒にときを過ごし成長を見守ってくれたファンはバンドにとって非常に大切な存在です。彼ら・彼女らとの変わらない関係値構築の課題も「変わらぬブランド」発信であると言えるでしょう。

■感動ポイント

「新潟県上越、My Hair is Badはじめます」
Mステ演奏は椎木さんのその一言から始まりました。

私も数回だけ、友人に誘われたライブハウスで彼らのパフォーマンスを見たことがあります。この人歌ってるときも歌ってない時もギター掻き鳴らしながらずっとしゃべってるな、すごいなと思った下北沢を、テレビを見ながら思い出しました。

ライブの現場を誰よりも愛し、2日に1度はステージに立っていた彼らの顔つきを大型プロモ、TV出演といった「メジャー」なプロモーションでも丸めることなく発信した結果、ファン・新規関係なく心を掴まれたのではないでしょうか。

まるでライブハウスのようなMステパフォーマンス、彼らのアンセムソング「真赤」をプロモーションの軸に置き、一見刺激的な歌詞を敢えて堂々と街中に掲出する覚悟、成型された綺麗な広告ではなく、血の通った店員POPという形でジャックされた渋谷駅とタワレコ…全てのコミュニケーションにおいて、ありのままの恋、ありのままの自分を歌い続けてきたマイヘアの「らしさ」を損なわない工夫が散りばめられていることが素晴らしいなと感じます。タイアップなどの背景も無く、アーティスト起点でここまで全体設計が綿密に組まれたプロモーション事例自体音楽業界ではまだまだ珍しく、それにも感動します。

もしファンの方の目に届いており、ずいぶん解釈違いなどあったら申し訳ない…と思いつつ、今回も記事を通して本企画の意図・背景・魅力に迫る事が出来ていたら嬉しいです。ここまでお読みいただきありがとうございました!

この記事を読んでいる方へ

▼SNS×広告 意識調査レポート
・広告表現別の印象
・インフルエンサー/コラボ/UGC風
・好きな広告
・煩わしい広告
・買いたくなる/シェアしたくなる広告
などZ世代の実態を知ることができる内容です。

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池邊 沙也加

ストラテジックプランニング部 ストプラチーム。ゲームディレクションやWEBコンテンツ制作などの企業を経て、D2C Rに入社。ユーザーモーメントやペルソナ分析を軸に、感情を大切にした戦略を書きます。ごはんとお酒で大体幸せ。在宅勤務のリフレッシュに、ネットサーフィンのお供に。読みやすくて為になった気がする記事を発信します。

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